最高血圧が120mmHg、もしくは最低血圧が80mmHg以上が続く場合を高血圧と呼びます。「内科にかかる病気」として一番最初にイメージされる、もっとも身近な病気といえます。まずは統計的にみてみましょう。
ざっくりですが、高血圧を罹患される方が多く、医療費もかかっていて、高血圧が原因の死亡数も多いわけです。ある研究調査では、高血圧症の人が正常血圧の人よりも「(脳血管性)認知症」になるリスクが3.4倍も高い事がわかりました。「高血圧は放置しておけばよい」という雑誌ネタが昨今話題に上りましたが、放っておいてよいものとはいえません。
日本高血圧学会から、5年ぶりの改訂となった「高血圧治療ガイドライン2019」が発表されました。本ガイドラインでしめされた「高血圧」の基準値は従来通り、診察室血圧:140/90、家庭血圧:135/85 でありましたが、今回あらたに「正常血圧」として120/80未満が設定され、降圧目標に関しましてはより厳格になりました。75歳未満は診察室血圧で130/80未満(家庭血圧125/75未満)、糖尿病・慢性腎臓病をお持ちの方は診察室血圧130/80未満(家庭血圧125/75未満)と設定されました。特筆すべきは、75歳以上はより厳しくなり、目標140/90未満とされ、併存疾患などによる降圧目標が130/80未満とされる場合は忍容性があればそれを目指すことになりました。
正常値といわれる中にも、「正常高値血圧」と設定された120-129/80未満を越えるすべての方は、生活習慣の是正が必要で、高リスクの正常高値血圧および高血圧の方は、生活習慣の是正を積極的に行い、必要に応じ降圧剤治療を開始することが推奨されました。
高血圧は大きく2種類に分けることができます。ひとつは本態性高血圧、もうひとつは二次性高血圧です。二次性高血圧は、腎臓機能の低下やホルモンの異常、睡眠時無呼吸症候群や薬剤性など、「原因がある高血圧」で、これらの原因を解決・治療すると高血圧もよくなるものをいいます。本態性高血圧は二次性以外のもの、すなわち「ほかに原因がない高血圧」で、高血圧症の大半を占めます。
食塩感受性高血圧、すなわち塩分をとると著しく血圧の上昇する高血圧の家系です。現代のように簡単に食塩が手に入らず、照りつける太陽による発汗によって生命が脅かされた時代に、生き残った人類の進化の過程で身についた(ついていまった?)血圧を維持するための遺伝子、こちらが解明されてきており、これが「高血圧の家系」といえるものといえます。食塩感受性高血圧は日本人では40-50%をしめるといわれています。
これとは別に、地域によっては塩蔵品など塩分高めの食品が多く作られ、家系というより「同じ釜の飯を食べる(=同じ食習慣)」が原因のこともあるようです。
はじめて高血圧を指摘された場合、またはすでに高血圧治療をしているものの複数の内服薬でもコントロールが不良の場合、二次性高血圧を区別するための検査を行います。二次性が疑われる場合は、より詳しい検査をすすめ、原因を見つけ出し、その治療をおこないます。本態性の場合は、食事・運動などの生活習慣の見直しをアドバイスし、薬物治療をおこないます。
【おこなう検査】
肥満と高血圧は密に関係しています。まず、肥満に関連する様々なホルモンの異常が高血圧を引き起こす可能性があるといわれています(インスリン抵抗性・レプチン)。また、肥満により内臓が圧迫され、全身に血液を送るのに、ポンプの役割を果たしている心臓に負担がかかることもあります。肥満と関連の深い「睡眠時無呼吸症候群」を併発されている場合には、なおのことです。
「白衣高血圧」という、交感神経の緊張により血圧が上昇する病態が存在します。それが疑われる場合には、ご自宅の血圧記録を拝見し、普段のコントロールがどうかを判断します。しかし、なかには測定器が古かったり、測定の仕方に問題があることもありますので、測定器をご持参いただき、実測と比べてみることもあります。測定の時間が影響していることもあります。朝が一番高く、夕方に向けて低くなることが多いですが、中には逆や、一日を通して不変の方もおられます。ご自宅で朝夕の記録をしていただくことをおすすめしています。逆に、診察室では良好な血圧なものの、ご自宅で高くなってしまう「仮面高血圧」が存在することも知られています。そのようなときは、1日の血圧の流れをみる24時間血圧計で計測することをおすすめします。
大体同じ条件で測れるのが望ましいため、朝は起床後トイレに行った後に1-2分座位で安静後、朝食および服薬の前に。夜は寝る前をおすすめしています。左右差がないのを確認し、同じ条件で同じ姿勢と同じ腕(利き腕の反対)で測りましょう。飲酒後、入浴直後などは血圧に大きく差が出ることもあります。
大幅に血圧が変わった場合や普段と違う行動や精神状態であった場合、あるいは頭痛や肩こりなどの自覚症状がある場合は、しっかり手帳に記録し、主治医と相談してください。
十分にあり得ることです。更年期には男性・女性ホルモンいずれもが減少します(注:女性にも男性ホルモンが存在します)。女性ホルモンの減少に伴い、男性ホルモンの相対的な増加状態となり、これがレニン・アンギオテンシン系という血圧調節機構を活性化し、血圧上昇に働きかけます。また、女性ホルモン低下により、一酸化窒素という血管伸展物質が減少し、血管がかたくなり、同時に体液量がふえるため、かたいホースに水をたくさん流し込むイメージで、ホースの圧は上がってしまいます。以上のことから、更年期に入ると血圧が上がりやすくなります。